研究紹介
情報数理学研究室
研究テーマ
褪色写真の復元技術
1900年代前期に実用化されて以来,カラー銀塩写真は歴史的に貴重な史料を次世代に引き継ぐ重要な役割を果たしてきました.一方,近年では撮影から半世紀以上も経過したフィルムも多数存在し,経年劣化による褪色が大きな問題となっています.カラーフィルムの褪色は,個々のフィルムの保存環境や期間等の条件に大きく依存するため,所与の褪色カラーフィルムから取得した画像を自動的かつ統一的な方法論で復元することはそれほど容易なことではなく,また,そもそも復元自体が可能かどうかも完全には解明されていませんでした.この問題の解決を目指す札幌の民間企業である株式会社アイワードから,共同研究の打診を頂いたことを発端に,褪色カラー写真の復元法の開発に取り組み始め,実際に復元を行なうソフトウエアを開発するに至っています.
褪色カラーフィルム上に撮影された被写体の中には,例えば空や雲や草のように普遍的な色を想定できるものが存在することが多く,まずは,そのような被写体の色を想定した色に復元することを考えます.一方で,このような復元を行なうモデルは無限に存在するため,その中から,復元性能が高く極力単純なものを特定する必要があります.今回の共同研究では,幸運にも,褪色フィルムそのものと,そのフィルムが完全に褪色する前に印刷された画像を数組入手することができました.これらの画像を解析することで,褪色画像の三原色ベクトルから復元画像の三原色ベクトルを生成するモデルとして,アフィン変換を用いることで相応の復元が可能であることが解明できました.この方法では,原理的には4点の想定色情報があれば画像全体の復元が可能です.
図中,左は60年ほど前に撮影され,実際に褪色したフィルムから取得した画像で,右の画像は我々の技術により色彩を復元した画像です.
(褪色フィルム提供 : 古代オリエント博物館)